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005 院内の資材保管と搬送 現状と今後の動向

グループ購買の価値 - 2009年:戦略的削減ニーズの達成

株式会社 エフエスユニマネジメント
代表取締役 大橋 太

はじめに

 我が国の多くの病院においては、一部の診療・検査領域対象施設を除き、人件費に次いで多く費用比率を占めているのが材料費用であることは言うまでもない。が、その取り扱いが、経営上、運営上ともに、プライオリティ高く、又、先進的に管理されていて来ていたか?と問い直すとまだまだ胸を張れるには至っていないとの思いがある。よく、コンビニエンスストアなどに代表される物流管理手法と比較され、「医療界の物流管理は、一般産業界に比べて10年以上遅れている」などとも評されることもあるようである。勿論、その性格には非常に特殊性が高いことから、一概に比較や模倣がしにくいこともあるだろうが、未だ、特定の担当スタッフが留守になると何も解らない、といった状況であることも良く聞かれる。
 病院における、様々な材料の物流管理は「SPD」とも呼ばれ、近年ではポピュラーな用語になってはきているものの、そこでは資材=「モノ」の選定、購買、保管(=在庫)、搬送、使用、請求という実務と情報の物流を、川上から川下まで一連の流れの中で効率よく、遂行・把握・分析・改善を行っていく必要がある。川の全長も長いし、その取り扱い範囲という川幅も広い。
 筆者は、20年間以上、「SPD」(=物流管理)に携わってきたものとして、時代の移り変わりとともに、この川の流れの中で、特に重要な、「院内の資材保管・搬送が、現状と今後でどのように動向していくのか」を考察したいと思う。

1. 院内の資材

 表題にある、病院でいう「資材」とは何を示すか?数割の方は、注射シリンジであるとか、ガーゼ、カテーテルなどのいわゆる「ディスポーザブル医療材料」をイメージされるかもしれない。勿論、これは間違いでない。しかし、筆者は、医療行為・検査行為等に使う「資材(=モノ)」として、医療材料だけに限定せずに、医薬品・滅菌器材・ME機器・リネン類等も含んで考えるべきではないかと考える。
 このことは、使用する側やその周辺者からすれば当たり前で、例えば手術行為ひとつとって考えてみても「医療材料」だけで行為が完結するわけではなく、薬品や滅菌器材も同時に使用しながらその行為がなされる。それぞれの扱いが分離され、そのことが最前線の医療現場の負担増になるとか、管理が区別されるというのは、おかしな話である。
 余談であるが、筆者が属するSPDサービス業者の中でも、医療材料ディーラ等を中心に、医療材料を、自らが一括した調達を行いながら、院内配送を行うことこそが「SPD(物流管理)」なのである、という認識もなされているようであるが、原点に立ち返り、又、病院の物流全体の立場になって考えた場合、この認識はあまりにも狭義であり、この考え方が一般化することに疑問を覚える。
 本来の「SPD(物流管理)」は、病院の費用の中で、人件費に次いで、高い比率を占める材料費を一元管理化することで、様々なベクトルから病院運営・病院経営を効率化できる考え方であるはずである。
 本考察の中では、病院資材とは医薬品・滅菌器材・医療材料・ME機器・リネン類等を幅広く含んでの範囲として考えることとする。

2. 保管と搬送を考えるに当たって

 病院内の「資材」における保管と搬送について、大きく現状と今後の管理手法に分けて考え、さらに二つに分けて考えてみることにする。
 一つは、「資材」を使用する側での保管・搬送、もう一つは資材を供給する側での保管・搬送である。
 保管と搬送については、区分して考えるのではなく、あえて、共に考察していきたい。

3. 現状での保管・搬送管理

 どの病院においても、これまでも多かれ少なかれ、管理レベルの高低に関わらず、「資材」の管理を効率化しようと努めてきたはずである。用度部門や看護部門・薬剤部門等を中心に、「どうやったら安く買えるか?」「請求のサイクルを工夫すれば」「伝票をカードに換えよう」「払い出し単位を見直そう」と様々である。
  • 伝票による都度の請求〜購入〜払出しという方法  →  定数管理方式の導入
  • 定数管理には「バーコードカード」を活用し、伝票記載を減らそう
  • 供給単位は出来るだけ箱単位ではなく単品毎にして、余計な在庫を減らそう
  • 個人渡しによる薬品供給を行い、間違い防止や部署在庫の低減に寄与させよう
などが代表的な事例である。
 これらの工夫は、院内での在庫保管や、搬送管理においても当然工夫が行われ、効率化がなされてきた。
 それまでの、病院内の資材保管環境というと、例えば病棟ナースステーションの場合、ステーションに隣接して器材庫がレイアウトされ、数十p単位での棚板が作られている・・・と言う施設を目にすることが多かった。ナースを中心に、回診車などにここから小分けして、必要な内容を移し替えて利用する、といった準備業務が前提である。
 これらが、工夫によって、トレイ毎交換方式、カート毎交換方式、2ビン方式、キャビネット毎交換方式、バーコードラベルの棚板への貼付等々の様々な運用方法を、バラエティに富んだハードウェアと搬送ツールを組み合わせて、進歩を重ねてきた。
 これらの管理手法は、勿論、現在でも充分に効果を挙げることが出来る管理手法である。
 いい機会である。ここで、本来の理想的な資材保管環境について考えてみたい。
 使用者の側、それは「ナースステーション内処置コーナー」であるとか、「外来処置室」、「手術室」などが代表例としてあげられる。これらの側から見た重要なポイントは、その保管スペースが単に大きく確保できたとか否かではなく、ある行為の時点で、実際に処置・検査を実施する場所の近くに、@必要なモノが、A必要に足りる最低限の量、Bすぐに識別しやすく(取り出しやすく)、C期限切れなどなく、D清潔に安全に保管されていることである。
 さらにその管理の上では、
@必要なモノ
使われた実績を過去に遡って正確に把握し、動向を加味して、定数配置し、絶対に欠品が無い環境にする。
A必要な量
使われた実績を過去に遡って、搬送サイクルに従って必要量を把握し、梱包された箱単位だけではなく、時には1本、1個単位に小分けして配置する。
B識別しやすく
保管場所は、分類別を基本に、行為毎に同時に使われる頻度が高いモノは隣接して配置する。
C期限切れ無く
使用期限の古いモノから手前側に収納し、順序よく取り出せる配置をする。と同時にそのチェックも定期に行いやすい環境を整備する。
 などの運用との連携が重要である。
 このことは、病棟だけでなく、外来であろうが、手術室であろうが、他の部門でも、総論では同じであろう。又、前項でも触れたとおり、薬品・器材・医療材料を、同一の管理の下で行うことが重要である。
 保管の上で、もう一つ考えたいことは、特に@とAは日々変わると言うことである。医療技術の進歩のスピードに合わせて、刻々と変わっていく。パッケージのサイズが変わったために、今までの場所に置けないとか、量が増えたから1カ所では置ききれず、分散化せざるを得ない、でも半年経ったら又、別な新製品に切り替わり、使用量も少なくて済むようになり・・・等の事象にも柔軟に対応できる保管環境の構築が大切になってくる。
 そういった意味では、単なる棚板による、箱単位の保管環境から、柔軟且つ簡単に、間仕切り空間サイズの調整や、トレイ・引き出し内のレイアウトが組める参考写真のような導入施設が活用されてきたことも理解できる。(参考写真−1・2)

参考写真−1参考写真−2
参考写真−1参考写真−2

又、これらハードウェアの活用によって、必要となるスペース全体も削減できた事例も見受けられる。下に一例を示す。(参考図−1)
参考図−1
参考図−1

4. 今後の保管・搬送管理

 これまでの病院では、上記の様な考え方を代表例に、資材の保管・搬送の工夫を考えてきた。
 そして、今後の物流管理を見据えた場合、2つのキーワードとともに管理方法が変わり、それに伴って保管・搬送の方法も大きく変わってくると考える。実際には、既に実践している病院も数多く見受けられる。筆者の携わった事例も含めて考察していきたい。
 そのキーワードとは、一つに「電子カルテを中心にした病院情報ITシステムの一層の普及」であり、一つに「DPCの導入」である。
 では、この二つのキーワードで何がどう変わるのか?例えば、「DPC」の導入によって、それまでの「出来高請求方式」と比べて、薬品・医療材料の使用内容が極端に変わったのか?と問われると、筆者の理解では、目に見えて、使用内容・量が変化し、増加あるいは削減されたであるとかのデータは示されていない。しかしながら、医薬品・医療材料・ME機器・滅菌器材等の購入・在庫・使用のデータ把握・分析に関する意識、その内容から「より経営を考えよう」と言う意識は大きく変わったと言える。
 その代表例が「原価」に対する意識の変化と「標準化」の推進である。人件費の次に費用比率が高い「材料費」をどうコントロールすればいいのか?これまでのように請求の漏れさえなければ、最低限、病院の損失は防げたと言う考え方から、収入が包括化されるDPCにおいては、一定の決められた費用の中で、材料費用を含めた様々な「やりくり」を考えるベクトルが働く。経営の視点から見れば、出来るだけ、使用者毎の資材の選り好みはせず、標準化されたモノを使い、且つ、使用された資材データは各患者毎に全て把握せよ!そして、それを比較・分析することで経営支援データとして活用する、となる訳である。
 但し、皮肉れば、何もDPCが導入されたから、上記のように意識が変わるのもおかしな話で、これまでの制度下であっても当然、これらデータは把握・分析がなされていなければいけないはずであった。
 そして、「電子カルテを中心にした病院情報ITシステム」の普及である。様々な効果が見いだされているが、物流管理での関連の中で大きなポイントは、システム導入に伴って、物流管理で用いるITシステム側との仲で、様々なデータ連係がリアルタイムで行うことが可能になった点である。例えば、病院情報ITシステム側からは、患者ID毎の手術や処置、処方予定情報であるとか、入院(場所)情報、転棟情報等の情報連携が挙げられる。逆に、物流管理システム側からは、資材マスタ情報、在庫情報、請求情報等をフィードバックできる。
 これらのキーワードによって、保管や搬送に関連する資材の供給方法が大きく変わってきている。
 もっとも大きい代表例に、予定情報に基づく患者個別の供給スタイルが挙げられる。
 手術部門を例にとると、これまでは前項で述べたように、多種多様な資材が常備在庫として保管されてきた。準備担当者は、各棚から都度、必要に応じて取りそろえを行っていたのが通常であった。が、予定情報と連携することで、1手術毎にSPD側で予め使用すべき資材一式取りそろえ、1患者ごとにカートにセッティングを行い、手術部門内の準備エリアまで搬送する。準備エリアでは、申し送りを経て、手術室に、このカートで使用予定資材を供給する。このカートには資材そのものに「供給情報シート」なる情報シートが添付され、この実際の供給資材内容を電子カルテシステムの実施入力画面に連携させ、供給内容をもとに、使われた資材のチェックを行うことで、簡単に入力サポートを行う環境まで整備できる。
 病棟部門でも、基本的には手術同様に、処置行為のオーダを受けて、セット化し、これを一行為づつ、1枚(ないし2枚)のトレイ単位で作成・搬送する。手術部門と異なるのは、病棟単位で複数患者のセットをまとめて、カート単位で配ると言うことである。病棟ステーションでは、ナースを中心にチーム編成を行っている例が多いため、セットをトレイ単位で回診者に移し変え、この状態でベッドサイドに搬送し、処置を行う。ここでも資材に供給シートが添付され、患者間での間違いを防止することにも役立てている。看護側の準備取りそろえ業務を削減できるという効果もある。SPDから搬送される行為別セットは、搬送カート→ナースステーション一次ストック収納ハード→回診車間においては、例えば共通のサイズからなるトレイで全て共通化できていれば、供給者・使用者ともに、トレイのうちし替えだけという移し替えだけという手間で、行為がなされるわけである。
 下記に、実践している一例を示す。(参考写真−3、−4,−5)
 この例では、患者毎のセットには、各トレイ毎に、電子カルテシステムのオーダ機能からの「オーダNo.」「オーダ者」「実施予定時間」「セット内容」をはじめとして、各種情報が網羅された「供給シート」が添付される。さらには、オーダNO.をバーコード化し、実施を行うタイミングで、実施端末・行為者・患者リストバンドとセットに添付されたバーコードを照合することで、間違った患者への使用を防止するととに、実施画面に移行し、供給と使用情報をリアルタイムで連携させると言ったメリットを追求した。冒頭に触れた原価情報の把握にも役立つ。
参考写真−3 参考写真−4 参考写真−5
参考写真−3参考写真−4参考写真−5
 何よりも、予定に基づく医療行為が効率よく行われるというは、保管・搬送とともに物流上だけのメリットと言うよりも、マネジメントされたクリニカルパスのもと、根拠にもとづく診療計画が立てられるということにも繋がり、適切な医療そのものに繋がるはずである。これらの供給を行うには、本稿との趣旨には直結しないものの、情報系の整備が最も重要なのである。手術毎・処置行為毎に病院として予め使う資材をパターン化必要がある。この作成は容易ではなく、総論賛成でも、各論にはいると、医師毎に同じ術であっても使用する内容・量が違ったり、結局、途方もないボリウムのセットが完成し、実際の使用はその中のごく僅か・・・ということもあり得る。一定周期毎に内容見直しの分析を怠るわけに行かない。
 又、上記のような供給方法のボリウムが増えると、反比例でこれまでのように、常備在庫としてストックされてきていた資材のボリウムは減るわけであり、保管スペースの削減、種類・量が減ることでの「期限管理」のし易さ、固定化された在庫量の削減へと繋がる。
 そして、これらの管理を今度は供給側から考察してみる。
 資材を供給する側、薬品であれば薬局、滅菌器材であれば中央材料室、医療材料であれば用度課の材料倉庫などが代表例としてあげられる。
 これまで多くの病院では、医薬品・滅菌器材・医療材料・ME機器・リネン等の保管場所レイアウトは供給管理部門毎に個別に考えられてきた。例えば、滅菌器材を管理する中央材料室は、手術室に隣接させることが比較的多く、医薬品は、勿論薬剤部門に倉庫を配置し、さらに、薬局外来受け渡しの関係から、受け渡し口裏側のスペースを・・・、ディスポーザブル医療材料は用度部門隣接された倉庫で保管されたり・・・、これは、単独として考えれば理解できるものの、例えば前述したように、資材を使う側から見てみるとどうなるだろう。単独で資材を使うことは総じて少ないわけで、そんな中で、薬品は薬局に取りに行ったり、運んでくれたり、滅菌器材は、中央材料室に取り入ったり運んでくれたり、医療材料は、用度部門に・・・、請求や問い合わせする場合にも同様にこの発想で日々の業務がなされるのが効率的なのだろうか?やはり、出来れば総合受付・配送センター的な組織機能が配備され、専門領域的な問い合わせは別にしても、少なくとも、納品・検収・搬送・伝票入力等の日常の物流業務は一元化されていた方が効率的なのは言うまでもない。
 これを本来のSPD構想に基づいて考えてみる。
 SPDの文字を再度、分解して示してみると、
upply roccesing & istribution」となり、
Supply = 供給する
Processing = 加工(する)
Distribution = 分配
となる。
 ここで着目すべきは、「P=加工」と「D=分配」である。
 これまでは単品単位での保管・払出し・搬送が中心であったが、前述したように、患者個別の術毎、処置行為毎にセット化された資材の供給を考えると、運用を可能とさせるためには、各種の資材供給側のレイアウトが集中されていることが理想となることは言うまでもない。
 実際にこれらの考え方を病院設計時より導入し、レイアウトされた概念図イラストを以下に示す。(参考図−2)
参考図−2
参考図−2

 そうすると、供給側の保管の考え方も変わってくる。これまでは、「(備蓄)倉庫機能」としてのレイアウトだけが重視されてきたが、この施設では、SPDの心臓部は中央部分の「加工機能」となった。このスペースには、手術・処置・処方予定情報を受信する情報端末が設置され、必要に応じて、バーコードプリンタ等も設置される。必要な薬品・滅菌器材・ディスポーザブル医療材料等が集められ、トレイやカートに患者さん毎にあるいは部署毎に最適の単位で集積され、モノと情報がリンクされる。そして搬送カートに収納されたこれらの資材が、一元的にエレベータ等を使い、院内各部署に搬送されるという考え方である。
 勿論、納品時の検収行為や、これに伴う伝票入力、受付機能もこの中心部で一集中的に管理を行う。当然、搬送に要する導線・人的ボリウム・搬送カートの台数も効率化が図られた。
 SPDの「P=加工」「D=分配」を設計から運営まで、一貫して行ったことで、効率化を図った訳である。

終わりに

 資材の保管・搬送は、単に、「物体」としての、そのボリウムや形状だけで決められるものではない。そして、そこで用いるハードウェアや備品は、単にそれを道具として使用するだけでなく、特にこれからの時代においては、情報ITシステムの進歩&普及や、DPCに代表される医療制度への対応策等と密接に連携して、その効果を上げる管理マネジメントのツールとして考えるべきなのである。勿論、その根底には患者に対し、医療現場スタッフが最善の医療を施すために効率的であること。そして、そのことが最終的には、患者の安全に寄与すべきなのである。
 一方で、新しい施設の整備計画やハードウェア購入予算が無ければ、何も進まないのか?−決してそうではない。組織の見直し、運用の改善でも充分に対応できる部分もあると信じる。独断での考察であるが、皆様の一考に寄与されれば有り難い。
以上